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なぜ、すぐに消える記憶と永遠に忘れられない記憶があるのでしょうか。2-3日前の夕ご飯に何を食べたか、思い出すことができないのに、40年前のトラウマは未だに鮮明に再現される。記憶のメカニズムは未だによくわからないことが多い。もし、精神疾患の原因究明で記憶が大きく関与しているとすれば、記憶を消すことが最大の治療となるだろう。

私は研修医の頃、地域の精神病院に勤務していたが、電気ショック療法をときどき行っていた。額の両側に100ボルトの電気を数秒間流し、全身けいれんを起こして、記憶を一時的に消す治療法です。この治療法は、イタリア人のセルレッティが最初に開発した治療法といわれていますが、実は日本人の安河内先生(九州大学)が先だった。日本人ゆえに、英語に翻訳することができず、セルレッティの業績となった。私が研修医の時、安河内先生は度々講演を行っていました。未だにその印象を覚えています。もう他界されていますが。冗談話ではありますが、天井からぶら下がっていた電気の裸線が偶然に患者さんの頭に触れて、全身けいれんを起こし、その後、不思議に病気が快復したとか、言っていました。私が担当する患者さんも、電気ショック療法でかなり改善した方がいました。薬で無理やり鎮静するよりも、電気ショック療法の方が有効ではないかと思った次第です。不思議に患者さんは、「なぜ、自分が死のうとしていたのか、わかりません」と答えていました。記憶を消す治療として、有効だと思っていました、当初。しかし、1週間、2週間経つうちに、再び、思い出してはいけない記憶が再現し始めて、自殺未遂を起こすのです。残念ながら、一時的な効果に過ぎず、本質的な治療とは言えなかったと記憶しています。
その一方で、認知症の深刻な例にも遭遇しました。認知症になられた母親の目の前に、息子さんと面会させると、「この若い人は誰ですか?」と答えるのです、悲しいながら・・・・。自分が生んだ子供を認識できない。こんな不幸はあってよいのでしょうか。この病は深刻です。記憶が改善に失われてしまっていました。

記憶、この難題のメカニズムに応えきれる研究成果がこれから生まれるでしょうか。もし、この問題に新しい知見が生まれれば、医療は大きく発展することでしょう。私たち臨床医は、現象は見ることはできても、そのメカニズムを明らかにする方法論もなく、事実のみを記載するのみ。誰か研究者が、だれもが納得できる仮説を発表していただきたい。アミロイドβ仮説のような偽造論文ではなくて。

