私は知らず士らのうちに、患者さんが大泣きしてくれることを祈っています。「やっと、辛い体験(気持ち)を表現できたね」と言葉にすると、さらに大泣きされ、劇的に回復されることが多いのが実際です。先週の土曜日は、そんな方が3名ほどみられました。

一人は、うつ状態がひどく、子どもの面倒がみられなくなり、夫の両親に預けていましたが、抗うつ薬の効果や睡眠が十分とれたこともあって、こどもに会いに行きましたとのこと。子どもが「おかあさん」を叫んだことで、自分が母親だと気づいて、現実に立ち戻ったようでした。そのことを私に話されるやいなや、大泣きで、診察は終わりました。
もう一人は、これまで、ほとんど会話なく、表面を繕っていた若い女性の方でした。突然、「歯医者さんから、歯の磨きすぎだよ」と言われたことが頭から離れず、自分は十分わかっているけど、どうしても歯を磨きたくなるのは、小学生の頃からでした。歯を磨くと、こころが落ち着くということみたいですた。小学4年生の頃を父親をがんで亡くし、それ以来、ずっと不安だったのでしょう。歯磨きすることで、こころを落ち着かせようとされたようでした。「歯磨きしても、よいですよ」と声をかけた途端、突然大泣き状態へ。罪悪感をもっておられたのでしょう。歯磨きに対して。ここまで、自分の感情を表現できるのに、数か月を要しました。

もう一人は、若い女医さん。先生から離れたいという気持ち。自分が尊敬していた先生が、K大学への異動が決まり、自分が見放されたような気がすると、涙の連続。私と同じような経歴ゆえに、私をみると、トラウマが再現するのでしょう。紹介状を書きました。私は約10年ほど、本人さんの診察をしていましたので、離れることも不安な様子でした。「いつでも戻ってきてよいですよ。紹介する先生と波長が合わなかったら、いつでも戻ってきてください」と言うや、突然、ティシュくださいと言い、何枚のティッシュをとり、大泣き状態へ。私も、つられて、涙を浮かびました。

こんなドラマが続くので、精神科医は辞められないのでしょうね。まるで、映画をみているような光景でした。
