人と人の距離は、あらゆる場面で経験される。子どものころは、親子関係、友人関係。学生になると、サークル内の関係、同僚との関係。大学生になると、教授との関係。どこにいても、人間関係はつきまとう。そこでは、くっ付きすぎると「依存」となり、離れすぎると「拒絶」となる。勿論、適当な距離を保ちながら人間関係を維持していくことが大切なのは、当たり前のことであろう。

メンタルクリニックや診療所に訪れる方は、距離を誤ったか、誤った関係の中で育ち、離れることもできず、くっつきすぎることにも気づかず、悩んでいる方が比較的多い。まずは、親子関係でしょう。両親のいずれかがいない環境で育った方は、メンタルに弱いようである。一度、私は講義で失敗しました。それは、人が成長するには、父親のビタミンと母親のビタミンが必要ですよね、と話した途端、大泣きした学生がいた。「私は、自分の父親も母親も知りません。そういう私は、人間的に失格ですか?」「いや、君はすばらしい!失礼しました」と謝罪した。
親子の関係はとりわけ難しい。中国の留学生を診察すると、過剰な親子関係にプレッシャーを感じる人が多い。習慣として、親は子供が一人前になり、結婚するまで、最善をつくす、金銭的にも。それは、両親は介護が必要になった時、子どもへ援助を全面的に受ける。子どももそのことは十分わかっている。しかし、日本人の若者は、自分の両親が介護を要する場合、両親の糞便の始末ができるだろうか。介護施設に預けること考えるかもしれない。

この問題は、今後の日本の大きな問題となる。高齢者が多くなると、その介護をする介護者も仕事として必要になる。介護を専門とする職業人をさらに増やさなければならなくなるのは、もう目前に迫っている。労働者の最大の不足は、介護者の不足になるのは、間違いない。
さて、日本人の親子関係は、これから最重要課題になるだろう。私も65歳を越え、高齢者の入り口に差し掛かっているが、できれば、子どもに依存せずに、自分のことは自分でできるようになっておかなくては!

