人は誰でもどこか、壊れたところがあるから、それゆえに、楽しく、友達になれると思います。先日、留学生の相談で、自分は周囲の人々に完璧に答えていないという自己不全感で受診されました。最初、軽度のうつ状態ではないかと治療を行いましたが、後に本人から自分は「インポスター症候群」ではないかと尋ねられました。

インポスター症候群という言葉は、1978年に心理学者のポーリン・R・クランスとスザンヌ・A・アイムスによって命名されました。この症候群にある人たちは、能力があることを示す外的な証拠があるにもかかわらず、自分は詐欺師であり、成功に値しないという考えを持っているという方です。自分の成功は、単なる幸運やタイミングのせいとして見過ごされるか、実際より能力があると他人を信じ込ませることで手に入れたものだと考えられていますが、病気ではありません。インポスター症候群の方は、自分の達成を内面的に肯定できず、自分は詐欺師であると感じる傾向であり、米国では一般的に、社会的に成功した人たちの中に多く見られるそうです。また、自分を過小評価してしまい、仕事で結果を残せたにもかかわらず、成功体験ができた理由を「運がよかった」「周りの協力のおかげ」と思ってしまうそうです。「今回はたまたま成功しただけ」「失敗したら周りから批判されてしまう」という風に失敗を恐れて行動に移せなくなる傾向にあるのが悩みに陥ります。

一般の日本人では、このような方を「詐欺師」という言葉で表現するのは、あまり好まないと思います。自己の目標が達成できずに、仕事で成功しても、自分自身を過小評価してしまう傾向は身近にいる友人でも結構います。日本人の考え方にはあまり合わないような気がします。完璧な生き方を目指していると、誰とも仲良くできず、孤立することでしょう。一見ずっこけている人ほど、魅力的で、豊かな才能に恵まれている方がいると思います。
