よろず相談医 福本 純雄
佐賀市中心街の再開発ビル「エスプラッツ」夕闇が迫りだしたころ仕事帰りの女性たちが入っていく。
食料品フロアの一角、午後八時まで明かりがともる小さなスペースへと足は向かう。
看板には「SAGAなんでも相談栗肉」。「どの診療科にかかればいいのか」
「手術は本当に必要なんだろうか」。訪れた人が打ち明ける悩みに、福本純雄さんはじっくり耳を傾ける。
時間が許せば、本人の納得がいくまで話を遮ることはしない。一時間近く話し込む人も。
「不安や悩みを聞いてほしい患者はたくさんいる。体の痛みと心の痛みがつながっていることも多い。
話を聞くことで安心し、病状が柔らく人もいる」
大病院からの転身
九州大学医学部付属病院、県立病院好生館と二十七年続けてきた大病院の勤務医を六月に辞め、
クリニックを開業した。
診療科が臓器別に専門化していく医療。自分の病気はどの診療科がいいのか、
患者には分かりづらい。長時間待たされ、診療はわずか数分というのも珍しくない。
そんな問題を解消しようと「患者の立場で対応できるコンビニ的な”まちの保健室”」を目指す。
培った人脈を生かして患者に適切な医療機関を紹介し、「なんでも屋」の町医者として
小さななやみにも相談にのる。
もう一つの大きな役割が「セカンドオピニオン」だ。別の病院で受けている治療内容について
患者の質問に答える。「たくさん薬をもらったが、こんなに服用しなければならないか」。
患者の問いかけに薬の効能や主治医の治療方針を説明するが、患者と医師のすれ違いにを
痛感することも少なくない。
休日も急患対応
安定した地位を投げうっての挑戦。一緒に開業するはずだった小児外科医は病気がわかり、直前に離脱する波乱の船出となった。休日もエスプラッツの開店時間は救急対応を掲げる。
週一回、火曜日の午後は佐賀医大講師の応援を受けるが、朝十時から出ずっぱりだ。
経営も楽ではない。スタッフは看護婦四人に事務三人、週三回は婦人科医の応援を得ている。
「まだ自分の給料はでないですね」。それでも表情には充実感が漂う。
患者との信頼関係
昼間はお年寄りや子どもたち、夕方からは若い女性の姿が目立つ。風邪や軽いけがなど通常の治療のほか、仕事のストレスからくる肩こりやづ通に悩む人たちに、
注射や鍼で痛みをやわらげる。
空洞化が進む中心部。県病院時代から暮らす佐賀のまちづくりへの思いが、
エスプラッツでの開院を思い立った理由の一つだ。「駐車場確保など街中の医療経営は難しいと
言われるが、そこでずと暮らすお年寄りにとっても身近な医療の存在が必要」。
大病院時代には思うように築けなかった患者との信頼関係の重みをかみしめている。